「タートル・アイランド~『亀の島』の不思議な人々」vol.4

*第4回は、レイトレイシーでお馴染のアリゾナ州、ニューメキシコ州のナバホ族です。

ナバホ・ネーションの国旗。

【ナバホ族(アリゾナ州、ニューメキシコ州)】text by:越川威夫(Takeo Koshikawa)

キーワードは「共生」
ナバホ族は、全米一の居留地を所有し、人口もチェロキー族に次ぎ30万人を越え、約25万人が居留地とその周辺に住んでいる。実際、自分達の事を「ディネ」と呼んでいるが、「ディネ」はヘアーインディアンで有名なカナダのアサバスカ民族語系の言葉で「人々」を意味し、アパッチ族も同様に自分たちの事を「ディネ」と呼んでいる。

元々10~16世紀に、カナダから移住し米国南西部に住み始めたが、現在の場に落ち着いたのは、強制移住で多くが命を失った「悲劇のロングウォーク」後の19世紀後半である。その悲劇を乗り越えて、ナバホ・ネーションの国旗(※トップ画像参照)の通り、四方に聖なる山々に囲まれた安住の地を得たのだ。その聖山とは、北のブランカ•マウンテン、南のマウント•テーラー、西のサン•フランシスコ•ピーク、東のサングレ•デ•クリスト•マウンテンである。そして、それらを結ぶ虹は、レインボー・ガーディアン(虹の守護神)を表し、「共生」を意味する。ナバホの人々は、あらゆる人種、そして生物、自然との「共生」を最も重要と考えている。

壮観のキャニオン・デ・シェイ。(photo;Takeo Koshikawa)

神秘に包まれた天然の要塞
居留地は、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ州にまたがり、広さは北海道より少し小さい7.1 平方万キロメートルもあり、モニュメント・バレーやキャニオン・デ・シェイ等の大自然を有する風光明媚な土地である。西部劇でおなじみのモニュメント・バレーの雄大 さとともに、キャニオン・デ・シェイ(※上記画像)の神秘さにはいつも心を奪われる。その中央にある岩の塔は、スパイダーロックと言って、何と244 メートルの高さがある。その 先には、ナバホ族の居住以前に住んでいたアナサジ族の横穴式住居(※下記画像)が見える。

アナサジ族の横穴式住居。(photo;Takeo Koshikawa)

ナバホ族と長年敵対していたプエブロ族の祖先と言われるアナサジ族が、千年以上前から住んでいたと思われる住居は、渓谷の底から2百メートルは登らねばならず、まさに天然の要塞と言える。よほど、他民族の侵入を警戒していたのだろうと想像される。

地元で寛ぐレイトレイシー。(photo;Takeo Koshikawa)


心が還るところ—–ウインドーロック

ナバホ族のインディアン・ジュエラーとして有名なレイトレイシーは大学卒業後、ロスアンジェルス等の都会に長年住んでいたが、4年前に生まれ故郷のナバホ・ネーションの首都ウィンドーロックに引っ越してきた。若い頃はハリウッドでインディアンの映画俳優として活躍したレイも、年齢を重ねるにつれ、故郷が恋しくなったのだろうか。ウィンドーロックは交通不便な所であるが、心が安らぐのであろう。実際、彼の地で訪れた名物ラムシチューのレストランは、なぜかとても懐かしく、日本の下町の定食屋を思い出してしまった。首都名のウィンドーロックとは、真中に青い空が見える穴の開いた特異な赤岩であるが、ナバホ・ネーションの象徴とも言える自然のモニュメントだ。まるでハクスリーの『知覚の扉』 (注:1960年代の意識革命発端の書)の如く、神秘のナバホ世界へ導く入口の様にも思えてくる。

ナバホ族には、不思議な創世神話がある。神話は、メディンスンマンの儀式の際に「癒し」としても表現されるが、文字がないので書物としては残っておらず、口伝である。ナバホの神話は、神によってアダムとイブの如く、「最初の男女」がトウモロコシから創造される所から始まり、それぞれのシーンは劇的に相互に結びついている。

<第1世界>—–暗黒の世界。「最初の男女」と創造者でトリックスターのコヨーテの話で、第2世界へ脱出。

<第2世界>—–太陽と月、そして四方の話。まだ未熟であったため、ぼんやりとした明るさであった太陽と月は、「太陽」が「最初の女」を好きになってしまったために争いと なり、コヨーテともに第3世界へ脱出。

<第3世界>—–4つの山と湖の話。「水の神様」の子供達をコヨーテがさらい、怒りで第3世界は沈み、第4世界に脱出。

<第4世界>—–3つの大きな光の話。「最初の男女」は当初幸せに暮らしていた。コヨーテは「水の神様」の子供達を未だ連れており、「水の神様」は第4世界も水浸しにしてしまう。子供達を「水の神様」に返して、何とか第5世界に脱出。

<第5世界>—–暗闇の中、東の神に祈り、光とともに水は完全に引き、四方の風にも祈り、大地は乾き、人々はまた4つの山を造る。人々は空に太陽と月を投げたが、太陽が低すぎて大地を焦がしてしまい、酋長の妻が、生け贄となる。
太陽は規則正しく動く様になり、コヨーテの知恵で沢山の種を人々に分け与え、人々の生活は豊かになり幸せとなった。しかし、人々は自分達だけでその生活を造り上げたと主張し、いつのまにか慢心してしまった。そこで、「最初の男女」は、人々を懲らしめるため、人喰いの怪物を沢山創造する。その後、全ての怪物を退治され、何とか世界が静寂に戻り、ナバボ族が誕生したと言う不思議な話。

いかにこれが「宇宙の誕生と共生」の物語であるかが、おわかり頂ければ誠に幸いである。
ナバホ族は、その生成からして、全てのものとの共生を願う平和の民なのである。

第6代ナバホ・ネーション大統領、ジョー・シャーリー・ジュニア。
(photo;Takeo Koshikawa)


新しい時代のネイティヴ社会と産業がはらむ矛盾

数年前に、ウィンドーロックでナバホ・ネーション第6代大統領、ジョー・シャーリー・ジュニア氏(※写真上)にお会いした事がある。とても気さくな方で、その教養の高さと都会的なセンスに、ナバホ族の新しい時代を感じさせた。実際、シャーリー氏はナバホでのウラニューム採掘を阻止した功労者である。しかし、残念なことにその後ナバホ部族議会がデザートロック地区に新しい大型火力発電所の建設を決定してしまった。発電所建設は、多くの雇用と収入が見込まれる事業である一方、甚大な環境破壊が予想されうる。その地域には、既に2つの火力発電所が稼働しており、事実、地下水の汚染や健康被害が問題になっている。ナバホ・ネーションが位置するフォーコーナーズ地帯(ユタ、コロラド、アリゾナ、ニューメキシコの四州)は、昔からウラン、石炭を始めとする大型鉱山と関連産業が多い。この地域は、美しい自然を擁しながらも、環境破壊が特に酷く、「国家的犠牲地区」と言われて久しい。実際仕事がないナバホの人々は、それらの施設で働くしかなく、ウラン鉱山では多くの労働者が被爆し、ガンで亡くなっており、他の鉱山でも健康被害は深刻である。ナバホ・ネーションには数多くの火力発電所がありロスアンジェルス等の都会に供給しているが、ナバホ・ネーションの4分の1の人々は未だ電気がない状況であり、多くの矛盾を抱えている。まるで地球の縮図の様に思えてならない。

伝統と革新と—–ナバホ新世代
ナバホ族は、典型的な母系社会で、200以上の氏族からなる伝統的な社会であり、半分近くの人々はナバホ語を話し、自然とともに調和して生きてきた。部族議会の決定による、デザートロック地区の土地収用に対して、真っ先に反対したのは女性と若者達であった。女性達は、長年羊の放牧とトウモロコシ等の畑作に従事し、貴重な土地と水源を守ってきた。そして、若者達も環境問題に目覚め同調したのだった。若者のリーダーの一人、クレー・ベナリーは、ブラックファイアー(※写真下)と言うロックバンドのリーダーであるから面白い。ナバホ族の将来は、この様な伝統を守ろうという若者達に託されていると言っても過言ではない。大変困難ではあるが、ナバホ・ネーションの環境と経済発展の両立を、心から願うものである。

ナバホ・ロックも登場。(photo;Takeo Koshikawa)

最後に、レイトレーシーの素晴らしい祈りで結びたい。

調和を持ってこの大地を歩きましょう
神の創造した全てのものに感謝を捧げましょう
地上の在りとあらゆる生物を慈しみましょう
美しく歩んで行きましょう
調和のある美しい人生でありますように

オール・マイ・リレーションズ(全ての活けとして生きるものに捧ぐ)

越川 威夫(Takeo Koshikawa)
カリフォルニア州・サンラファエル在住。
映画制作者/ナワ・カミッグ・インスティチュート(デニス・バンクスらのNPO)アドバイザー/ピアザトレーディング株式会社役員。
ネイティヴ・アメリカンと長年にわたり交流を持ち、その文化に造詣が深い。
デニス・バンクスの自伝『死ぬには良い日だ』(2010年;三五館発行)共訳者。
ドキュメンタリー映画『死ぬには良い日だ』、『ナワカミッグ・インディアンドラムは鳴り止まず』他プロデューサー。

※第5回はカリフォルニア・インディアン前編です。ご期待下さい!

(本コラムは楽天市場レイトレイシー原宿表参道店メルマガ会員向けに2011年12月13日配信されたものです)